観客席視点からの立ち技系女子格闘技
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女子のパンチでも人は死んでしまう 一般の格闘技ファンのための100の大事なことがら その19

 こういうテーマを書くのは気が重いのですが、大事なことなので読んだ方々は頭のどこかに覚えていてください。

 そして、「え?ストップ早すぎじゃん?」とか「安全対策大げさやろ?」と感じたときに思い出してくれると幸いです。

 一般論として、男子の身体的パワーに比べて、女子のパワーは低いです。そのため、男子の格闘技に比べて、女子の格闘技は安全だと思われていますが、それは間違いです。

 打撃系の場合、一撃KOの迫力では男子ヘヴィー級が一番ですが、では、そのヘヴィー級のKOが事故につながるのかといえば、ほかの階級に比べて特にそういう傾向はありません。つまり、パワーが一番の事故原因ではないんです。

 では、打撃系格闘技の何が危険なのでしょうか?それは連続して頭部を打たれることです。

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 人間は普段の生活の中で想定されるような危険にはある程度は対応出来るように出来ています。

 歩いていて何かに頭をぶつけたり、転んで地面に頭を打ったりということは誰でも経験があると思いますが、それでも痛さの記憶が残るだけで、たいていの場合は無事に済んでしまうのはそのためです。

 しかし、「連続して頭部を打たれる」ということは人間の体にとっては想定外です。この「想定外」のことがおこなわれるのが打撃系格闘技。

 なかでもボクシングはほとんどの攻撃がお互いの頭部を狙います。そのため、頭よりも下を狙う技(ローキックやミドルキックなど)が多いムエタイ、キックボクシングなどよりもずっと危険性は高くなります。

 この「連続して頭部を打たれる」という競技の特性はボクシングなら男子も女子も同じ。なので、女子のボクシングも危険性にはなにも違いはありません。

 男子の事故より女子の事故のほうが知られていないのは、単純に試合数が少ない(=事故数が少ない)ためです。

 実際に起こった女子打撃系の深刻な事故の例を見てみましょう。

 2003年にアメリカの『タフマン・コンテスト』というイベントで30才の女性が亡くなりました。このイベントは正式なボクシング競技ではなく、素人の腕自慢がヘッドギアを付けてボクシングルールで戦うものです。

 この女性は、自分の試合が終わって帰るときに「あしたの試合で女子がひとり足りない」という話を耳にして「じゃあ、わたしが出るわ」と2日連続で出場したのが命取りだったと言われています。

 2005年にはアメリカの正式なアマチュアボクシングの試合で35才の女子選手が亡くなっています。第3ラウンドにKOされたあと、意識がなくなりそのまま死亡したものですが、それ以前の試合のダメージの蓄積などがあったのかどうかはよく分かっていません。

 この2003年と2005年の例はどちらもヘッドギアを着用していての事故で、ヘッドギアがあっても事故防止の役には立たないということを示しています。

 プロでは2014年に南アフリカで一人の女子ボクサーが亡くなっています。8回戦の第6ラウンドにKOされ、病院に運ばれ手術を受けましたが2週間後に死亡しました。

 手術が成功して最悪の事態を回避出来た例としては、2004年の八島有美選手の事故があります。JBC管轄下になる前のJWBC時代の日本フライ級王者だった八島選手は2度目の防衛戦の相手に早千予選手を迎えますが、10ラウンドフルに戦って判定負け。直後に異変が起こったため病院に搬送され、開頭手術を受け「生還率50%」という症状から幸運にも一命をとりとめました。

 2013年にはWBCスーパーフェザー級王者フリーダ・ウォルバーグ選手が、同王座の防衛戦でディアナ・プラザック選手に第8ラウンドKOでやぶれました。ダウンしたウォルバーグ選手はそのまま起き上がれず、緊急入院。開頭手術の結果、生還しましたが、ボクサーとしてのキャリアはその時点で終了しました。

 公式に確認されている女子の事故はこのぐらいだと思いますが、表に出ていないところで、同様の事案は存在しています。

 試合直後は無事でもかなりの時間が経ってから発症した場合、試合ではなく練習が原因で発症した場合などは、いつの、どの試合(どの練習)が原因なのかを特定することが出来ないので、なかなか表には出ないのです。

 また、死亡や開頭手術までいかなくても、生活に支障が出るレベルの後遺症は多数存在していると思われます。

 QRはときどき試合を見ていて心底嫌な気持ちになることがあります。それは、若いへたくそな選手がポカポカ殴り合っているような試合です。

 単純なパンチしか習ってないのか、それ以上のことを習っていても実際にはまだ使えないのか、どういう理由か分かりませんが、とにかく未熟な二人が、根性と度胸だけを武器に、ディフェンスも何も無く殴り合っているような風景は大嫌いです。

 この程度しかできない人間をどうしてリングにあげるのか?プロのコーチがデビュー戦までにこの程度しか教えられないのか?新人のうちに脳にダメージを蓄積したらそのあとは不幸な結果しかないのがなぜ分からないのか?そして、ダメな試合をどうして誰も止めないのか?

 いろんなことが腹立たしくて、見てられません。

 ポカポカパンチでも何分間も浴び続けていれば若いうちから頭痛持ちになってしまいます。

 ゴミみたいな試合のために、若い脳を犠牲にして何になるのでしょうか?

 みなさん、リング禍(りんぐか)とは死亡事件のことだけではありません。手足や内臓と違って、脳のダメージは修復出来ないのです。この脳を傷つけることは多かれ少なかれ不幸なことなのです。

★打たれ過ぎの試合はレフリーやセコンドが止めるべきです。

★ヘッドギアは安全とは関係ありません。

★大幅な減量のあとに打たれると命の危険が増大します。

★ディフェンスの出来ない人間をリングに上げてはいけません。

★ディフェンスの出来ない人間に激しく打ち合う練習をさせてはいけません。

★ろれつのまわらない練習生がいるジムに入会してはいけません。

★頭痛などの自覚がある人はしばらく練習を休み、それでも治らなければ打撃のない競技に転向しましょう。

 自分の命と健康は自分で守ってください。あなたの健康にはあなた以外の誰も責任を持つことは出来ないのです。

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コメント

  1. シンイチ より:

    読みごたえがありました。

    もちろん、既に知っている事もありましたが、
    QRさんの知識と経験により、
    まとまっていると言うか
    全体像が分かりやすかったですし、
    最後の大事なポイント(?)なんかも、
    既に分かっている選手もいるとは思いますが、
    もう一度自覚するきっかけにしてほしいですし、
    「え、あんまりよく知らなかった」という人は、
    本当に気を付けてほしいですね。

    格闘技が素晴らしいという事は
    揺るぎませんが、
    人生を棒に振ってしまうのは、
    事前に、その覚悟があったとしても、
    大変な悲劇だと思います。

  2. queens of the ring より:

    >シンイチさん コメントありがとうございます。
    おっしゃるとおりです。格闘技は本当に素晴らしいけど、人生はもっと価値があります。だから、本当に大事にしてほしいです。

    ちゃんとしゃべれない人ばかりのジムをやめたのは知り合いの実話なんです。
    残念ながら、ジムはどこでも同じではありませんので、正式に入会する前によく観察しないといけませんね。

  3. ぽむ より:

    実際素人女子のパンチでも一般男性を大けがさせるくらいの威力はありますからねぇ…何回もやられたら…

    女子に対する一部世間のイメージが少し規格外というか少しかけ離れている人も多いのも事実で甘く見ているというかか弱く見すぎているというか…

    ですのでしっかりと安全対策をとってもらいたいですし本人も意識を持って欲しいです

  4. みやび より:

    ろれつのまわらない練習生が・・・

    の行は本当に大事なことだと思います。

    私も気をつけます。

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